グローバル化や小学校の英語必修化を背景に、中学受験の試験科目に英語を導入する学校が増えています。また、今後も中学受験に英語を導入する学校は増えると予想されます。まずは志望校の入試要項をしっかり確かめることが重要です。そのうえで、中学受験の英語対策について考えていきましょう。

今回は、中学受験を控える子どもをもつ保護者の方々に、英語入試の動向や入試に必要な英語スキルを身につける方法について解説します。

子どもの中学受験に悩んでいる…

 

小学生の子どもをもつ保護者の中には「うちの子は英語が嫌いで困っている」「中学受験を希望しても英語があると難しいのでは…」と悩んでいる方もいるでしょう。

英語が得意であれば中学受験に多少有利となります。とはいえ、英語が苦手な子どもは多いものです。また、志望校に合格するためには、英語だけではなく他教科の勉強も必要。中学受験で他教科の難易度が高ければ、苦手な英語学習の向き合い方について考える必要があります。

「それでも、なんとかしたい」と思う場合、中学受験に英語があるのかどうかリサーチしたうえで本願校・併願校を選んだり、出題傾向を分析して学習内容を特化したりするなどの対策が重要です。最初から中学受験をあきらめる必要はありません。

首都圏の中学受験で英語入試があるのは何校?

 

首都圏の中学受験で英語を導入した学校は、2014年に15校、2018年で112校と初めて100校を超え、今春2022年の首都圏入試では146校に増えました。前年2014年は143校ですから3校の増加にとどまっており、146という数字は英語入試を新設した学校と取りやめた学校が相殺された結果になっています。

出典:首都圏模試センター【今春2022年入試では146校が「英語(選択)入試」を実施!】

また、御三家あるいは新御三家といわれる男子校、女子校で、中学受験に英語を導入している学校はありません。中学校側も、社会の潮流と実際の成果を見ながら試行錯誤している段階といえるでしょう。

かし、2020年に全面実施となった新学習指導要領のもとで英語を学んだ子供たちが、2022年の中学受験に挑戦しています。今後、小学校英語の質が高まることを考えれば、中学受験で英語を導入する学校の増加傾向は続くと予想されます。

試験項目に『英語』が導入された背景

 

中学受験に英語が導入された背景には、以下の3つあります。

  • 小学5年生から英語が必修教科になった
  • 大学入試における英語の内容が難しくなった
  • グローバル化に対応できる英語力が求められるようになった

1つめの小学校における英語の必修化(2020年施行)が、中学受験の科目選定に影響を与えています。以前までは英語に親しむ「外国語活動」でしたが、英語の必修化により他教科と同様に英語力が評価されるようになったのです。

2つ目の大学入試問題の難化は中学受験に影響を与えています。大学入試では、英語のコミュニケーション能力に加えて、思考力・判断力・表現力などを問う内容が増加傾向です。

3つ目のグローバル化は、インターネットの普及が大きな理由です。世界の人々とコミュニケーションを取ったり経済活動に参加したりする現代では、英語力があれば自分の可能性を広がるでしょう。

中学受験に英語が導入された背景には、学校の変化や社会情勢が大きく関係しているといえます。

中学受験・入試で必要な英語スキルとは

中学受験・中学入試で必要な英語スキルは、志望校の入試傾向によって変わります。小学校で習う英語力(600字〜700字程度)で解けるレベルの問題を出す学校もあれば、読解力や作文力、会話力まで重視する学校もあるためさまざまです。

中学受験で必要な英語スキルを身につける際、ただ「英語を覚える」のではなく、総合的・客観的な視点で学ぶことが大切です。もちろん単語や熟語を覚え、品詞や5文型も確実に理解するのも必要でしょう。しかし、単語や熟語、文法を習得しただけでは、英語スキルは身につかないため、中学受験で結果を出せません。基礎知識を「どのように活用するか」が問われるのです。つまり、長文読解や英作文、会話力が求められるといえます。

またグローバル化の視点でいえば、日本の文化や歴史に関する知識、日本の伝統などを英語で表現する力も必要です。中学受験に必要な英語力は、持っているスキルを活かす力、つまりコンピテンシーなのです。

英語の入試問題で出題される範囲は?

中学受験で出題される英語レベルは、実用英語技能検定(英検)2級〜4級程度です。特進や国際コースであれば、高校レベル(英検準2級〜2級に相当)の英語力が必要ですが、中学受験では、3級または4級程度の学校が多いといわれています。

また受験校によっては、英語面接(集団・個人)があります。自己紹介や質問応答など、英語でのコミュニケーション能力を試されます。中学受験は高校・大学受験と同様に、英検のレベルと密接に関連しています。高位級の取得は特待生として合格する可能性もあるため、塾やスクールに通って英検と中学受験のダブル合格をねらう受験生もいるでしょう。

受験勉強や英会話は、いつから始めるべき?

受験勉強は、小学3年生から4年生頃に始めるのがいいといわれています。なぜなら、中学受験の出題範囲が広いからです。すべてをカバーするには早い段階から計画的に勉強を進めることが大切です。試験科目に英語がある場合、中学受験に向けた勉強を小学5年生から始めたのでは遅いかもしれません。「外国語活動」に慣れ親しむ中学年の段階で、見通しをもって勉強した方が英語力は向上します。

英語を早期に学び始めると「英語に対する抵抗感がなく、特有の発音やリズムが身につく」などの効果があります。ただ、無理強いは禁物です。中学受験に向けた勉強や英会話を始める前に、子どもの個性を見極めることが大切です。やる気と主体性を尊重しながら中学受験をサポートしましょう。

英会話・英語スキルを身につける方法・対策方法

ここでは、中学受験に向けて英会話・英語スキルを身につけるための5つの方法を解説します。

まず、中学受験の過去問題を入手し、入試レベルや出題傾向を把握しましょう。中学校によって傾向が異なるため、過去問題の分析は大きな意味があります。中学受験では筆記試験だけではなく、面接のある学校もあります。筆記試験の内容は、単語や文法の基礎的な問題から読解・作文・リスニングなどさまざまです。

中学受験は決まったけれど志望校が未定の場合も、読む・聞く・話す・書くの4技能をバランスよく習得しましょう。

英単語は毎日復習する

毎日復習するとは、記憶という引き出しを開けたり閉めたりする回数を増やすことです。インプットとアウトプットを何度も経験すれば、記憶の引き出しにストックされます。英単語を毎日復習する方法は、以下のとおりです。

  • 学んだ単語はその日のうちに書き出す
  • 単語を覚えるときは必ず声に出す
  • 覚えた単語を日常生活で使ってみる

英単語を覚える場合「意味を理解しつづりを覚えて書く」のが通常の方法ですが「覚える」というより「見る・聞く」回数を増やすイメージで、中学受験に向けた勉強のやる気をキープしましょう。

英文や文法の基礎を理解する

中学受験に必要な英文や文法の基礎力は以下のとおりです。

  • 品詞の意味が分かっている
  • 基本5文型を理解している

品詞とは、名詞、動詞、助動詞、形容詞、副詞、接続詞、前置詞、冠詞、間投詞です。基本5文型とは主語(S)動詞(V)補語(C)目的語(O)の4要素の語順です。品詞の意味や役割が分かっていれば5文型を理解しやすくなり、その逆もあります。

長文読解や英作文に必要なのは、英文や文法の基礎力ですから、教科書や中学受験用の問題集で確認することが重要です。

長文の読解力を身につけるため、洋書を読む

英文や文法の基礎力は長文の読解力につながります。長文読解に必要なのは、単語力と文法力に加えて想像力です。想像力とは次の2点をさします。

  • 筆者が伝えようとすることを想像する
  • 文脈に隠された意図を考える

長文読解は、単語力、文法力、想像力が必要であり、これら3つの力を身につけるためには洋書を読むのがおすすめです。筆者の伝えたい内容を英語でまとめられれば、読解力に加えて要約や英作文の力も身につけられます。また、中学受験の勉強に洋書を使うと、入学後の英語力向上に役立ちます。

英会話スクールに通う

中学受験対策として英会話スクールに通う受験生もいます。自宅内で英語力をつけるのに不安を抱く受験生も多く、自宅以外のリアルな場で勉強するのが必要だと感じるからです。

中学受験の英語対策として英会話スクールに通うメリットは、以下のとおりです。

  • 英語特有の発音やリズムに慣れ親しむ
  • 単語や文法を覚えるより慣れる
  • 海外の人と接するときの抵抗感がなくなる

早いうちから英語の発音やリズムに慣れると、抵抗感なく英語を学べます。単語や文法を理屈ではなく直感的に学べるため、習得も早いでしょう。

英会話を取り入れたスクール・習い事で楽しく学ぶ

「楽しく」学べるのは、中学受験に向けた取り組みとして貴重です。学習塾では左脳的な学びが主流ですが、英会話スクールでは右脳的に学べます。

小学校での英語必修化や大学受験の英語が難しいことなど、中学受験に英語が導入された背景はさまざまですがただ、英語を学ぶのは人々と楽しくコミュニケーションをとるのが目的です。英単語や文法を覚えても人とやり取りできなければ意味がありません。また、中学受験のためとはいえ、学ぶ楽しさを味わえるのは多感な時期に必要な経験でしょう。

難しく考えすぎず、子供の自主性を大切にしよう


中学受験で英語が導入されたのは、グローバル社会を生きる子供たちが、自分の力を十分発揮し多様な人々と楽しく生きられるようにするためです。
中学受験で合格するために「英語をどう攻略するか」に加え「中学受験を通して学びを深くする(英単語・文法・長文読解・英作文の力を伸ばす)」という視点が必要です。

子どもを置き去りにしないようにしましょう。中学受験や志望校合格の先を見てください。子どもの個性や本質を見極め、子どもの自主性を重んじる姿勢が何より大切です。学びは本来楽しいものです。難しく考えすぎず、どうしたら楽しみながら学べるか、その視点も忘れないようにしましょう。